(マイ…もう少しで会えるのね…)
船室から海を眺めながら、サユリはマイの事を思っていた。リヒテンラーデに着き、そこで自らの口で縁談を断れば、そうすればマイの後を追う事がようやく叶う…。船が進む毎にその願いに一歩一歩近付いているのだと。
「ゴゴゴゴゴ……」
「きゃ!」
海を眺めていると突然船が揺れ動き出し、サユリは床へと転がり出した。
「た、大変ですサユリ様!船を突然モンスターがあぎゅわ!」
「!!」
床へ倒れた刹那、切羽詰った顔で警護兵の一人が部屋の中へ駆け込んで来た。息を切らせながら必死に語る警護兵。しかし後方から現れた浮遊する骸骨型のモンスターイルヘッドに頭を噛み砕かれ、その場で絶命した。
「ズキューズキューン!!」
「あ…ああ……」
イルヘッドは激しい音を立てながら殺した警護兵の血を吸収し始めた。その凄惨な光景にサユリは体全体が震え、床から立ち上がる事が出来なかった。
(このままじゃ殺させる…。でも……)
ようやくマイに会えるというのに、こんな所で死ぬ訳には行かない…!そう思い、サユリは恐怖心を必死で抑え付けながら立ち上がり、術の詠唱を始めた。
「我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ!エアスラッシュ!!」
「グアアア〜〜」
血を吸う事に夢中になっていたイルヘッドはサユリの攻撃を避ける事が出来ず、既に死人となった警護兵と共にその身体を魔力の炎で焼かれた。
「はぁ…はぁ…。ごめんなさい…でもこうする他はなかったんです……」
イルヘッドが絶命したのを確認すると、サユリはゆっくり自分が焼き払った警護兵の元へ近付き、目から涙を流しながら謝罪した。
既に息絶えた人とはいえ、自分が助かる為にモンスターと共に焼き払ったのは事実だ。逃げる気ならサユリに構わずに逃げれた筈なのに、サユリを護る為にここに報告し、そしてモンスターの手によって殺された…。その勇敢な貴方にこんな事しか出来なくて申し訳ありません…。
そうサユリは心の底からその警護兵に感謝と謝罪の念を込め、整然とした敬礼を行った。
「サユリ様、ご無事ですか!」
「ジュンさん!良かった、ご無事だったのですね…」
剣を抱え臨戦体勢のジュンがサユリの部屋へと駆け付けた。自分を心配して駆け付けたジュンの姿に、サユリはその安否に胸を撫で下ろした。
もうこれ以上自分の為に人が死ぬのは見たくない、ジュンさんがご無事で本当に良かったと。
「サユリ様、今は詳しく話している暇はないけど、とにかく船がモンスターに襲われた。数が多くてとてもじゃないが防ぎ切れない。船ももう持たない、とにかく船から脱出するんだ!」
「はい!」
先導するジュンと共にサユリは船の甲板を目指し、船内を上へ上へと走り出した。
辺りから聞えて来るモンスター等の呻き声と人々の断末魔。一体どれだけの人の命が失われているのだろう…でも今の自分にはその人達を助けられる力はない…。自分を護る為に命を落としたあの警護兵の為にも生き延びなきゃならない!
そう思いながら、サユリはジュンと共に襲い掛かるモンスターを払い除けながら、甲板への一歩一歩を踏みしめて行った。
『ウリイイイイ…グアア…』
「くっ…ここにもモンスターが…」
二人は何とか甲板へと駆け上がったものの、そこは既に多数のモンスターが蠢き合っていた。
「サユリ様…このまま強行突破を掛ける…。いいな…?」
「ええ…ジュンさんを信じます…」
まともに立ち向かっていたならいつ命を落とすか分からない…。ここは甲板、海はもう目の前だ。ならば一か八か強行突破を掛けるしかない。
そうジュンは決心し、サユリもそれに賛同した。
「はああ〜〜!!」
ジュンは激しい形相でモンスターの群れに走り掛け、強引にモンスターを払い除けながらサユリと共に海へと飛び込んで行った……。
|
SaGa−13「参上!怪傑ミステリアス=ジャム」
「ふ〜ようやく着いたな…」
船をモンスターに襲われたジュン達とは対照的に、ユウイチ達は長い船旅を無事に終え、目的地であるフェザーンへと到着した。
ここフェザーンは、近年ルビンスキー商会が台頭して来た事により、世界有数の商業都市へと発展した。しかしルビンスキー商会のやり口が他の商業都市を脅かしているのは言うまでもなく、他のフェザーン商人からもその独占的なやり口は批判の的を受けていた。
「!ユウイチさん…。今そこの倉庫に怪しい人が…」
シオリは港付近の倉庫に怪しい二人組が入って行くのを見掛け、その方向を指差しながらユウイチに話し掛けた。
「大丈夫なのか?この草は麻薬の原料だぜ?」
「だから金になるんだろうが。安心しな、誰も見ちゃいねえよ」
シオリの指差した倉庫へ静かに忍び寄ると、その中では二人の男が麻薬の取引を行っていた。
「でかしたぞ、シオリ…。どうやら噂に聞いてた麻薬の密売の現場のようだぜ…」
コーネフ社長の話から察するに、取引相手はルビンスキー商会のものなのだろうか?いずれにせよ、コーネフ社長の言った事は本当だったのだと、ユウイチは小声でシオリに囁きながら思った。
「それでどうするつもり、ユウイチ君?」
「決まってるだろ、現場を抑える。ん…?」
「フフフフ…」
カオリにどうするか訊ねられ現場を抑えるとユウイチが男達の前に出ようとした瞬間、何処からともなく女性の笑い声が聞えて来た。
「天知る、地知る、ミステリアス=ジャム知る!麻薬で人々の心を蝕みながら、己はぬくぬくと大金を得ようなどとは、断じて許せません!」
正義の味方風の台詞回しを叫びながら、天井から黒い仮装服姿の女性が男達の前に飛び出して来た。顔を覆面で覆っている為に正体は分からないが、その声とプロポーションから女性であるのは間違いない。
しかし何て恥ずかしい台詞を言うんだこの覆面女はっ!?そうユウイチは颯爽と登場したミステリアス=ジャムと自称する女性の正義の味方風の台詞回しと動作に唖然とした。
「ジャムか…。ヘッ、女如きが〜!」
力では男の方が有利と思ったのか、一人の男がジャムと名乗る覆面女性に襲い掛かった!
「はぁっ、空気投げ!!」
「ぐへっ!」
だがジャムは襲い掛かって来た男の攻撃を颯爽と交わしながらその懐へと入り、そして体術技空気投げを叩き込んだ。
「くっ、女だと思って高を括っていたが、噂以上の強さだ…」
そう捨て台詞を吐き、ジャムに食い掛かった男は倉庫から逃げ出して行った。
「た、助けて。あいつに無理矢理頼まれただけなんだ。あいつがどこの誰かも知らないんだ!」
一人残った男は先程の男とは対照的に、ひたすらジャムに許しを乞うた。
「貴方の船主は?」
「ル、ルビンスキー商会だよ…」
その男に対し、ジャムは優しい声調ながらも相手に迫る口調で問い掛けた。その問い掛けに男はすんなりとジャムの問いに答え、ジャムの前から情けない不格好で逃げ去って行った。
「やっぱり…」
そう呟くとジャムは静かに倉庫を立ち去って行った。その姿をユウイチ達は暫し見送っていた。
「凄いです…。自分より身体の大きい男性をああも華麗に投げ飛ばすだなんて…」
ジャムの華麗さに、シオリは惚れ込んでしまっていた。正体は分からないけど、何て強くてカッコ良くて、そして華麗な女性なのだろうと。
「それにしても、格好はともかくかなりの腕の持主ね、ねえユウイチ君?」
「……」
「ちょっと、呼び掛けてるんだから返事ぐらいしなさいよ!」
「あ、ああすまん。ちょっとジャムさんに見惚れてて…」
呼び掛けても返事をしないユウイチにカオリが怒鳴るように声を掛けると、ユウイチはようやくカオリの問い掛けに気付いた。
「ユウイチさん、私と同じですね。カッコイイですよね、ジャムさん!嗚呼、私もあんな風になってみたいわ…」
「いや、カッコイイというより、なかなかのスタイル抜群で…」
「ユウイチさ〜ん」
シオリはてっきりユウイチも自分と同じ想いをジャムに抱いたのかと思ったが、どうやらユウイチはジャムのスタイルに見惚れていただけであった。
「まあ、憧れるなら、まずはその胸をどうにかしなきゃな」
「そんな事いうユウイチさん、嫌いです〜」
シオリをからかいながら、ユウイチは思った。どうやら自分の予想通り、さっきの取引はルビンスキー商会の密売のようだ。しかし、本当にジャムの正体は一体誰なのだろう…?
色々と疑問は尽きなかったが、とりあえず船旅の疲れを早く癒さなきゃならないだろうと思い、ユウイチはカオリ達と共に親戚の家へ向かって行った。
|
「こんにちは〜」
「いらっしゃいませ〜。あら、どこかで見た顔だと思いましたならば、ユウイチさんですね。お久し振りです、暫く見ない内に随分大きくなりましたね」
「ええ、ここに来るのは暫く振りですから大きくもなりますよ。こちらこそお久し振りです、アキコさん」
フェザーンに住んでいる親戚の家を訪ね、ユウイチは自分の叔母にあたるアキコに挨拶をした。アキコはフェザーンで酒場を兼ねている自宅に住んでおり、仕事中であるようだからと、ユウイチはその店先を訪ねた。
「ナユキ〜。ユウイチさんが訪ねてきましたよ〜」
「えっ、ユウイチが!?ちょっと待っててお母さん、今行くから〜」
アキコは店でウェイトレスを勤めさせている娘のナユキに、ユウイチが訪ねて来た事を知らせた。ナユキは丁度客に飲み物を運んでいた所で、それが終わると駆け足でユウイチの元へと駆け付けた。
「わっ、本当にユウイチだ。久し振りだねユウイチ。私の名前、まだ覚えてる?」
「覚えてるって、さっきアキコさんがお前の名前を呼んだだろ?」
「う〜そうだけど、お母さんが私の名前を呼ばなくても、私の名前が分かったかなぁ〜って…」
「忘れる筈ないだろ、ナユキ。お前も随分と大きくなったもんだ」
「うん!」
「ところでユウイチさん。何かご用があって訪ねて来たのでしょうか?」
ナユキとの再会に浸っていたユウイチにアキコは訊ねた。そのアキコに対してユウイチは自分が何故フェザーンへ来たかを話した。
「そうでしたか、マリーンドルフ家再興の為に…」
「ええ。その手始めとしてルビンスキー商会に独占されているフェザーン経由の陸運の確保を任されまして」
「陸運は得られる収入源も膨大ですから、ルビンスキー商会も他に奪取されないよう必死になっています。事にあたる時は充分に気を付け下さいね」
「ええ」
「それそうと、後のお二人の女性はユウイチさんのお友達でしょうか?」
アキコは話題を変え、ユウイチと共に店を訪れたカオリとシオリに目をやった。
「初めまして。ユウイチさんの村仲間のシオリって言います。外の世界を見たくてユウイチさんに付いてフェザーンまでやって参りました」
「シオリの姉のカオリです。旅の目的は、まあ妹の付き添いという感じで」
「そうでしたか。ところで長旅で疲れたでしょうから、皆さん紅茶でもどうですか?」
アキコに勧められ、三人は酒場のカウンターに座り、紅茶を頂いた。
「ところで、アキコさん。ミステリアス=ジャムってご存知ですか?」
紅茶を飲みながら、ユウイチは港の倉庫で目撃したジャムについて訊ねた。フェザーンで酒場を営んでいるアキコさんなら何か知っているだろうと思い、ユウイチは訊ねたのだった。
「ええ。どこの誰かは分かりませんが、ルビンスキー商会を良く思わない人はフェザーンにもいますので、街の一躍人気者ですよ」
「悪を打ち倒す謎の者っていう意味を込めて、ミステリアス(謎)=ジャム(邪を無に帰す=邪無=ジャム)って言うらしいんだけど、とにかく街中ジャムブームだよ。女の人だから男の人には当然人気があるし、その華麗さには女の人達も惹かれているんだよ」
「そういう気持ち分かります。ああいう闘う女性ってカッコイイですよね!」
「うん、私もそう思うよ」
ナユキと意思の疎通が出来た事をシオリは嬉しく思った。ああいった女性はいつの時代でもか弱い女性達の憧れの的なのだと。
自分は今でもこうしてなかなか一人立ち出来ない女の子、だからジャムさんのような男にも引けを取らない女性に憧れるんだ。もしまた会う事があるのならば、どうすればそんな風に強くなれるか訊ねてみようと、シオリは胸の内に抱いたのであった。
|
「…という訳でして、我がネオ=マリーンドルフ商会と致しましてはルビンスキー商会の独占状態にある陸運業をどうにかしたいと思いまして…」
「う〜ん、君の独占状態をどうにかしたいという気持ちは分からないでもない。私も内心ルビンスキー商会の独占をよく思っていない人間だ、だから君のような人間に協力したいという気持ちもある。だが、ルビンスキー商会に逆らうと私の身がどうなるか分からないのもまた事実だ。済まないが、答えはもう暫く待ってくれ」
「分かりました。では後日またお伺い致しますので」
取引先の人に頭を下げ、ユウイチはその場を後にした。完全に断られた訳じゃないからまだ脈はある。あとは取引成立へと導く何かのキッカケが欲しいと、ユウイチは思った。
(しかし、やっぱりマコトを連れて来るべきだったかな…?)
ユウイチは今更ながらハイネセンへ置いて来たマコトを、本人の希望通り連れて来るべきだと思った。マリネスク商会の末娘と関係があるというコネがあれば取引の成功率が上がるだろうから、自分を連れて行けというのがマコトの意見であったが、旅先でどんな危険が待ち受けているかも分からないからと、ユウイチはマコトを置いて来た。それで本人はまだ家に戻りたがらないようだから、一応叔父のカーレに暫く預かってもらう事にした。
「待ちな、そこの兄ちゃん。この街でルビンスキー商会に逆らおうとするとどうなるか分かってんのか?」
「やれやれ、アキコさんが気を付けろっていったけど、早速お出ましか…」
後から声を掛けられ振り返ると、そこにはヤクザ風の雰囲気の男二人が武器を持って構えていた。
成程、ルビンスキー商会はこうやって時には強引な手口によって地盤を固めてるのか。商人の風上にも置けない奴等だなと呆れながら、ユウイチは背中に背負っていたロングスピアを構え、臨戦体制を取った。
「お、兄ちゃん、まさか俺等に力で敵うと思っているのか?」
「弱い犬程よく吠えるって言うけど、喋る暇があったらさっさと掛かって来たらどうだ?」
「何を、なめやがって!望み通りぶっ殺してやるわ!!」
ユウイチの挑発に激怒した二人の男は、猛烈な勢いでユウイチに襲い掛かった!
「よっと、足払い!!」
「ぐわっ!」
男達が目の前まで襲い掛かった瞬間、ユウイチは腰を落とし、槍の柄で男達の足を払った。怒りに身を任せ足元が疎かになっていた男共は、ユウイチの足払いにより、見事に転倒した。
「くっ、なかなかやるな…」
「おっと、これ以上襲い掛かろうとするんじゃないな。下手をするとお前達の首が飛ぶぞ?」
男達が転倒し身体を起き上がらせようとした隙を狙い、ユウイチは男達の首の先に槍を突き付けた。
「くっ、今日はこの位にしておいてやるぜ!」
「やれやれ、これじゃあ犬の方がまだマシだったかな…?」
ありきたりな捨て台詞を吐きながら逃げる男達の姿を見て、ユウイチはやれやれと思った。
しかし自分のようにそこそこ腕の立つ人間はいいが、そうでない人間は暴力を始めとした強引な手口に屈してしまうのだろう。そういったか弱い人々を強引な手口から守ってやるという観点に立つなら、ジャムの行動も分からなくはない。恥ずかしい台詞を吐くのは別として…。そうユウイチは思った。
|
「ルビンスキーさんも、こんなボロ家に1000オーラムも出そうって言ってるんだぜ。金貰って出てったらどうだ!」
「ん?」
アキコの経営する酒場に戻ろうと街を歩いていたら、高圧的に怒鳴る男の声が耳に入り、ユウイチはその声の聞こえる方角に目を向けた。
「お金はいいんです。おばあちゃんが寝たきりだから、ここから出て行く訳には行きません」
(やれやれ…噂をすれば何とやらというやつか…)
声の方向に近付くと、ある家に男共が詰め寄り、女性を脅かしている現場が目に入った。どうやらルビンスキー商会の手の者が無理矢理立ち退きを迫っているようだ。応待する女性は必死に抵抗を見せているが、男達が強引な手口に切り替えるのも時間の問題だと、ユウイチは思った。
「そうかい。じゃあオレ達がばあさんを運んでやるよ!」
(やっぱりな…さて…)
ユウイチの予想通り、男共は強引な手口に切り替えた。このまま見過ごすのも良心に障ると思い、ユウイチは家の中に駆け込み、男共を追い払おうと身構えた。
「待ちなさい!老人をいたぶろうなどとは許せません!」
いざユウイチが踏み込もうと思った瞬間、ジャムが颯爽と姿を現し、自分より早く家の中へと駆け込んで行った。
「くっ、噂の怪傑ミステリアス=ジャムか!これでも食らいやがれ!」
男達は懐に隠し持っていたナイフを取り出し、一斉にジャムに襲い掛かった!
「スクリュードライバー!!」
「ぐわあああ〜!」
するとジャムは腰に掲げていたレイピアを取り出し、小剣技スクリュードライバーを放った。小剣の矛先を鋭く回転させる事により真空波を巻き起こす技に男達は吹き飛ばされ、武器を放り投げながら家の中へ倒れ込んだ。
「今のは大分手加減しました。これでもまだ老人をいたぶろうなどと思うのなら、次は手加減しませんわよ」
「くっ、野郎共引き上げだ!」
圧倒的な力の差を見せ付けられた男共は尻尾を巻くように逃げて行った。
「申し訳ありません、ルビンスキー商会の手の者を追い返す為とはいえ、家の中を散らかしてしまいまして…」
「いえいえ、そんな。助けて頂いてどうもありがとうございました…」
(やれやれ、出る幕なしか…。しかし…)
ジャムの声を何処かで聞いた事があるような気がするとユウイチは思った。それもつい最近、このフェザーンに着いてから…。
しかし思い当たる人物がとてもそのような行動を起こす人物には見えないので、自分の思い過ごしだと思いながら、ユウイチはアキコの経営する酒場へと戻って行った。
|
「あらあら、誰かと思えばユキト殿。ランスに向かったのではなかったのですか?」
「いや、向かったは向かったが、途中のキドラントで思わぬ敗北を味わってしまってな。このまま負けたままにしたくないが、現状だと勝てる気がしなくてな。それで裏葉さんの知恵を借りようと戻って来たんだ」
「あらあら、それは…。詳しく話して頂けないでしょうか?」
「ああ」
裏葉の元を再び訪れたユキトは、キドラントでの一部始終を話し始めた。村長に怪物退治を任され、その洞窟に閉じ込められた事、そしてその怪物の正体が鼠の群れであり、その群れに敗北を喫してしまった事を。
「あらあら、つまりはその鼠を倒すのにはどうしたら良いかと?」
「ああ。裏葉さんなら何か手を思い付くと思って」
「そうですわね…」
そう言うと裏葉は奥の部屋に行き、何かを詰めた小袋を持ち出して来た。
「これは…?」
「”ねこいらず”ですわ」
「ねこいらず?そんな物で本当に鼠が退治出来るのか?」
「あらあら、古来より鼠を退治する時はねこいらずと相場が決まっておりますわよ」
「まあいい。とりあえす貰って行くよ」
おほほと微笑む裏葉の厚意を素直に受け取り、ユキトはねこいらずの入った小袋を裏葉から譲り受けた。
「ところでその鼠の群れはやけに統率が取れていませんでしたか?」
「ああ。言われてみれば確かに…」
「やはり私の思った通りですわね。恐らくその鼠を統率しているのは”アルジャーノン”ですわ」
「アルジャーノン?」
裏葉の説明によると、アルジャーノンというのは、ある時裏葉がリヒテンラーデ公に知能の高い鼠を作れと命じられて作った鼠だという事だった。しかし知能の高いのが災いし、裏葉の元から逃げ出し、何処かへと姿を消したという話だった。
「黄色の電気鼠を作るならともかく、アルジャーノンは外見が素っ気無い鼠でしたからあまり思い入れがありませんわ。もしその群れを統率している鼠がアルジャーノンでしたなら、有無を言わさず退治して下さって構いませんわ」
「退治するのは構わないが、他の鼠と区別がつくのか?」
「アルジャーノンは賢い鼠ですから、ねこいらずが効かない筈。その渡したねこいらずが効かない鼠がいましたならば、それがアルジャーノンだと思って下さい」
「分かった。じゃあな、裏葉さん」
裏葉にお礼を言い、ユキトは裏葉の庵を後にした。
(さて、ひとまず街で食糧を調達してから戻るか…)
そう思い、ユキトは森を抜け、リヒテンラーデの街へと向かって行った。
…To Be Continued |
※後書き
前々からの予告通り、ついに水瀬親子の登場となりました。原作では重要な位置の二人であるのに、登場が大分遅くなってしまいましたね…(苦笑)。これでKanonキャラでまだ登場していないのは美汐だけとなりました。まあ、原作通り出て来てもあまり出番がないと思いますがね(笑)。
さて、今回のタイトルにもなった”怪傑ミステリアス=ジャム”ですが、作中では謎のキャラクターとされていますが、読んでいる皆さんには正体がバレバレだと思います(笑)。ちなみにその名前の由来は作中で名雪が説明しておりましたが、あれはあくまで作中内の由来でありまして、実際の由来は言わずと知れた秋子さんの謎ジャムです(爆)。
次回の展開はまだ構想中ですが、ジャムの正体を明かしたり、アルジャーノン戦の決着を着けたりしたいと思います。では。 |
SaGa−14へ
戻る